Talks / Lectures
瀬戸内国際芸術祭 2025 公式トークイベント
「SIOMEが変わる時−境界にあらわれるモノの意味と、消滅可能性自治体のこれから」
会場:KASAYAソーシャル/パフォーマンス・スペース+アートワーク(香川県 東かがわ市 引田)
会期:2025年8月16日(土)
登壇者:間瀬朋成、中國正寿
8月16日(土)、東かがわ市引田の笠屋邸(KASAYAソーシャル/パフォーマンス・スペース+アートワーク)にて、東京藝術大学と香川大学による瀬戸内国際芸術祭2025公式トークイベント「SIOMEが変わる時―境界にあらわれるモノの意味と、消滅可能性自治体のこれから」を開催した。
トークイベントでは、科学者の中國正寿氏(香川大学瀬戸内圏研究センター 特命助教)と、私(間瀬朋成/香川大学イノベーションデザイン研究所 特命助教)が登壇し、瀬戸内海の「潮目」と地域の未来、そして芸術と科学の協働について議論を行った。
科学とアートに現在のような境界はなかった」と語り、宇田道隆や寺田寅彦のように、科学と文学・芸術を横断した研究者の存在を紹介した。科学と芸術の融合は新しい概念ではなく、本来ひとつながりの知の営みであったという視点である。
潮目とは、異なる水塊がぶつかることで生まれる海の境界であり、プランクトンや稚魚、海藻だけでなく、プラスチック片や生活ごみも集積する。本イベントでは、潮目を単なる自然現象ではなく、人間活動の痕跡が凝縮される場所として捉え直した。中國氏による「潮目がマイクロプラスチックの集積ホットスポットである」ことを示した研究は、科学と芸術の視点が交差する重要な契機となった。
中國氏とは、実際に調査船へ乗り込み、潮目の共同調査も行っている。中國氏が海洋観測によってプランクトンやマイクロプラスチックを採集し、私はそこで得られた漂流物を作品化している。その実践の延長線上で生まれたのが、《The Sea’s Assemblage》である。潮目に集まる漂流物を冷凍し、海そのものが生み出した「アッサンブラージュ」として提示した作品である。科学がそれらを「サンプル」として扱う一方、アートは「オブジェ」として一回性を持った表現へ転換する。こうした協働は、科学と芸術が同じ現象を異なる角度から照射し、新たな意味を生み出す実践となっている。
会場となった笠屋邸が位置する引田は、かつて鳴門海峡を越える船の「風待ちの港」として栄えた町である。しかし現在は過疎化が進み、「消滅可能性自治体」とも位置づけられている。本イベントでは、この町そのものを「過去の記憶」と「未来の可能性」が交差する“潮目”として捉え直し、地域に蓄積された文化資本を掘り起こしていく重要性についても議論を行った。
「SIOMEが変わる時」は、科学者と芸術家が同じ潮目を見つめながら、それぞれ異なる視点で世界を読み替えていく場となった。調査船での共同研究から作品展示へと至る協働は、既存の学術や美術の枠組みに還元されない、新たなナラティブを編み出していく実践となっている。





