Project
《 Existentia 》
2002年−2004年
このExistentia Projectは、マルセル・デュシャン以降のオブジェを、「サイトスペシフィック(場所の特性)」の文脈における象徴として再解釈する試みである。「サイトスペシフィック」とは、場所の歴史、社会的背景、文化的な成り立ちを含む広範な概念であり、単なる物理的な場所に留まらない。
オブジェの誕生によって、19世紀以前の絵画や彫刻が担っていた芸術の役割は大きく変容し、拡張された。従来、素材や技法によって担保されていた芸術としての意義は、オブジェの登場により大きく揺らぎ、芸術の存在論、認識論、制度論そのものを揺るがすことになった。本プロジェクトでは、このオブジェを観念的な特定の時間と空間の中でのみ自立する像として捉え直し、再解釈を試みている。
リサーチの対象として選んだのは、大量物流の象徴でもある東京中央卸売市場(旧築地市場)である。この場所で仲買人の店で働きながら、魚を保管するためのマイナス40度の冷凍倉庫を舞台に制作を行った。雨の日に濡れて凍結してしまった自身の頭髪を使った自刻像や、鮮度が落ち売れなくなった魚を長靴型に凍結する作品などを制作した。これらの像は現前と非現前の間に存在し、「幽霊」としての非実在の存在を想起させる。
旧築地市場は近代的な物流センターとしての機能を持つだけでなく、江戸時代から継承されてきた文化的側面が色濃く残る場所でもある。市場の仲買人たちは、セリによって厳選した魚を落札し、分類することでグラデーションを作り、それぞれのニーズに応じて適正価格で提供する。これらのプロセスは単なる取引を超え、食文化を支える職人技ともいえる。そして、この文化的伝統の背景には、このマイナス40度の冷凍倉庫という物理的な土台がある。
冷凍倉庫での労働は、体への負荷が大きく、凍傷や低体温症、急激な温度変化による事故も少なくない。こうした過酷な環境では、短期間で稼げるアルバイトとして若者や芸術家、かつて全共闘運動に参加していた元活動家など、多様なバックグラウンドを持つ人々が働いている。この労働環境そのものが、場所の象徴的な特性としてプロジェクトの中で重要な意味を持っている。

