Curation
「先端芸術 2020 / アペラシオン APPARATION」
会場:東京藝術大学美術館 陳列館
会期:2020年9月20日(日) - 10月3日(土)
企画監修:伊藤俊治
キュレーター:間瀬朋成
主催:東京藝術大学先端芸術表現科
助成:公益財団法人朝日新聞文化財団、公益財団法人野村財団、
美術学部杜の会
協賛:資生堂
この展覧会「先端芸術2020 アペラシオンAPPARITION」の「先端芸術」とは、最先端技術を使った作品を集めた展覧会ではない。また、「芸術」は時間や方向性を持つものではなく、ここで言う「先端性」も単なる進歩や新しさを指す言葉ではない。この「先端性」とは、日常生活の中に潜む「縁(ふち)」、つまり世界と私たちの境界に目を向けることを意味する。
出品しているアーティストたちは、自己と世界、自己と出来事の間にある境界で独自のリサーチを通じて探求を行っている。そのリサーチは、既存の答えをなぞるものではなく、観察や記録、対話や資料の発掘など多様な方法を用いてテーマを掘り下げていく過程である。このリサーチに基づき、技法やメディアの枠を軽やかに越えた新しい形や視点が生まれる。これらの作品は、自己表現のための内的な分泌物ではなく、外的な世界の混沌に反応し、無心で秩序を求めた時間の集積だといえる。その結果、日常の「縁」を超えた新たな意味や形が現れてくる。
展覧会タイトルの「アペラシオンAPPARITION」とは「姿を現すこと」や「出現すること」を意味する。この言葉は、現実と虚構の境界を曖昧にする「幽霊」というメタファーと重なる。「幽霊」は実在しないようでいて、現実に影響を与える存在だ。本展覧会の作品もまた、「幽霊」のように観る者の意識に深く入り込み、やがて意味として回帰する瞬間をもたらす。それは不意に現れる気づきや発見として私たちの中に残るだろう。
冷戦以降の世界では、唯一の正しさや歴史が否定され、多様な文化や視点が見直されてきた。その結果、現代美術にはもはやトレンドというものが存在しない。同時代を生きるアーティストたちは、社会問題や現代の状況に向き合いながら表現を行っている。その多くは、リサーチを基盤にした深い洞察や探求を経て生み出されており、現代社会に対する批評性を含んでいる。しかし、これらの作品は単一の答えを提供するものではない。作品が複雑な感情や考えを呼び起こし、心にわだかまりを残すことこそが魅力なのだ。
「どう見ればいいかわからない」「何を意味しているのだろう」と思うかもしれない。それでも構わない。まずは作品と向き合い、「なにか」を感じ取ってほしい。その感覚はやがて、思わぬ瞬間に新しい発見や気づきとして回帰するだろう。この展覧会は、そうした体験を提供する場である。












