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​Painting

 この作品は、コンピュータヴィジョンが人間のまなざしに覆いかぶさった現代の「歴史画(物語画)」を描く試みである。コンピュータヴィジョンとは、デジタル画像や動画を解析し、人間の視覚システムを模倣する人工知能(AI)の下位分野であり、情報社会において人間と非人間の視覚が混在する新たな視覚環境を生み出している。

 

 《Computer Drawing》シリーズでは、私の日常的なデジタル写真をランダムに選び、コンピュータのアルゴリズムでエッジ検出を行い、その結果をもとに絵画を制作している。スマートフォンで容易に撮影できるデジタル写真は、写真や「思い出」の概念そのものを変容させた。コンピュータヴィジョンによるエッジ検出は、画像をピクセル単位で分析し、主観や情動を排除した「見る」行為である。それは、我々がまなざす日常の知覚認識を越えた、意味の無い情報を生成するプロセスでもある。

 人間にとって重大な意味を持つ記憶や「思い出」も、コンピュータヴィジョンにとっては単なるセンシングの一部であり、無限に生成されるデータの中の小さな差異でしかない。ここには絵になる風景も描きたい人物も存在せず、情動や記憶は完全に排除されている。

 

 心理学によれば、情動は抑圧されることで不安に変容する。フロイトの「不気味なもの」によれば、不気味さとは親しみのあるものが突如として恐怖の対象に反転する逆転のメカニズムであり、「死の欲動」や「反復強迫」と深く結びついている。コンピュータヴィジョンのまなざしは、抑圧されたものを回帰させ、隠されているべきものを外に現し、幽霊のように私たちの意識に取り憑く。これらは、非人間の視覚がもたらす不気味な存在として、このペインティングの中に浮かび上がる。

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