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Photography
人間は記憶や想像力を駆使し、無意識に「見たいもの」を見てしまう。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿にはこう記されている。
「様々なしみや石の模様を眺めると、そこに山、川、木々、戦闘、顔など、あらゆるイメージを見出すことができ、それらを形にまとめ上げ、物語を紡ぎ出すのだ。」[1]
これはパレイドリア現象と呼ばれるもので、無意味な模様や形から心の中にあるイメージを投影してしまう人間の性質を指している。
この写真作品《Pareidolia》シリーズは、東京の噴水をハイスピードシンクロ撮影することで、水が一瞬の彫刻のような形をとる瞬間を捉えたものだ。人間の視神経では捉えきれないその瞬間は、動き続ける水を一時的に静止させ、彫刻のような存在感を与える。私はその中に、美術史の中の肖像画や彫刻を思わせる形を見出したが、これは偶然ではなく、「私が見てしまった」美術史との邂逅でもある。鑑賞者もまた、この水の彫刻に自身の記憶や想像力を重ね合わせ、異なるイメージを見つけるだろう。
水は固体・液体・気体へと形を変え、世界の流動性や潜在する意味の多様性を象徴するモチーフだ。その一瞬の形は、無常観を象徴すると同時に、変化し続ける自然と人間の関係を映し出している。この作品は、東洋的な無常観と西洋美術史の形象が絡み合い、偶然と必然が交錯する新たな視覚体験を提供する。噴水の一瞬の形に触れることで、鑑賞者は自らの記憶や想像力の働きを改めて意識し、そこに潜む「見たいもの」を追体験するだろう。
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[1] Da Vinci, Leonardo (1923年) “Note-Books Arranged And Rendered Into English” Empire State Book Co
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