top of page

​Process Art

 1960年代以降、メディウム・スペシフィシティが崩れ、絵画や彫刻は伝統的な技法や素材から解放された。そうした中で生まれたプロセスアートは、完成された形態よりも、制作のプロセスそのものに焦点を当てた表現として注目を集めた。エヴァ・ヘッセ、ロバート・モリス、リチャード・セラらの作品は、コンセプチュアル・アートの脱物質化の潮流に対し、物質を再評価する「再物質化」の動向とも評される。

 

 一方で、「物質が失われるプロセス」に着目した作品は少ない。この作品は、氷の首像を制作し、冷気が循環する冷凍展示装置の中で、展示期間中に首像が徐々に抽象化していくプロセスを示している。氷が個体から気体へと昇華する現象は、知識としては理解されているが、短時間では視覚的に認識できない。しかし、時間の経過とともに形が失われ、抽象化する様子は、鑑賞者に物質の儚さと存在の不確かさを感じさせる。この過程を観察することで、鑑賞者は、時間がもたらす変化と、物質が失われることで生じる欠損の象徴性に想像を掻き立てられる。

 冷凍展示装置は、首像の消失という物理現象を強調するための空間的な舞台であり、鑑賞者がその変化を多角的に体験できるよう設計されている。冷気が循環し温度と湿度が制御された環境の中で、氷は静かに溶けるのではなく、個体から気体へと直接変化する。このプロセスは、彫刻作品を「準安定状態の芸術」として捉え、物質と時間、空間の相互作用を視覚的に浮かび上がらせる試みである。

 水は固体・液体・気体へと相転移することで、世界の流動性と潜在的な意味の可変性を象徴する。あらゆる「もの」は永遠不変ではなく、刻々と生成変化し、運動の中に存在している。この作品は、彫刻という固定された概念を超え、無常観の中で一時的に存在する物質の姿を捉えようとするものである。

 

 鑑賞者は、氷の首像が形を失いながら消えていく様子を目撃する。その欠損は、時間の経過とともに記憶や存在が薄れていく儚さを思い起こさせる。同時に、このプロセスは、自然や社会で進行する取り返しのつかない変化を象徴し、私たちが日々の変化や無常さとどう向き合うべきかを問いかける。

  • Facebook
  • X
  • Instagram
© Copyright 2024 TOMONARI MASE 
bottom of page