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Project

by the Ceremony

​    -an Encounter through the place : Ueno Park

​   September 9, 2005、上野恩賜公園

 東京は戦災や天災、それに伴う復興事業によって、近現代の歴史が見えにくくなった都市である。この「場所の記憶」の忘却/想起という問題に対し、このプロジェクトでは上野恩賜公園という場所を通じて、共通の記憶やアイデンティティを共有することを試みた。

 

 上野恩賜公園は、かつて徳川将軍家の菩提寺である寛永寺が存在した場所であり、その壮大な本堂である根本中堂は戊辰戦争の際に焼失した。その跡地に現代の文化施設が建ち並ぶ現在、この場所の歴史的記憶は薄れつつある。しかし、かつてここで営まれていた儀式や行事の持つ象徴性を再解釈することで、共通の記憶を想起する場を作ることができるのではないかと考えた。

 このプロジェクトでは、焼失した根本中堂の跡地を象徴的な舞台として演出した。建物が存在していた場所の四隅から光を天に向かって放ち、まるで天から舞台が降りてきたかのような空間を作り出した。その中で雅楽が奏でられ、舞楽が舞われた。雅楽は、シルクロードを経由して日本に伝わった歴史的な音楽文化であり、この演出を通じて場所の記憶を広い文脈で再構成する試みである。

 

 記憶文化論の第一人者アライダ・アスマンは、記憶が個人や集団のアイデンティティと密接に結びついていると述べている。想起は、単なる過去の再現ではなく、個人や集団が社会の中でどのように位置付けられるのかを問い直す行為である。また、アスマンは「住まわれざる記憶」という概念を提唱している。それは、特定の担い手から切り離され、現在の社会で機能しない膨大な記憶の資源を指す。このプロジェクトは、こうした「住まわれざる記憶」を呼び起こし、再解釈・再構成することで、観客に新たな視点を提供する試みである。

 歴史そのものはアイデンティティを形成する力を持たない。しかし、場所の記憶を再解釈し、体験を通じて共有することで、人々の意識に遠くの過去が生き生きと蘇る。このプロジェクトが目指したのは、そのような記憶とアイデンティティの再発見である。

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