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​Sculpture 

 18世紀ドイツの思想家ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーは、彫刻は触覚のためのものであると述べた。彼にとって触覚とは、単に手で触れるという行為だけではなく、視覚を通じて彫刻の量感(マッス)を感じ取る体験を指していた。彫刻は目で触れることで触り返される存在であり、その能動的なまなざしが量感を顕現させるというのである。

 

 この木彫作品は、ヘルダーが語る量感の体験とは異なるアプローチを取っている。木という硬質な素材を極限まで薄く削り、わずか0.2〜0.3mmの厚さに仕上げることで、木が本来持つ量感を極限まで研ぎ澄ませ、透けるような質感と脆さを強調している。削り出された薄い木には、杢目が細胞のような生命の痕跡を浮かび上がらせている。

 この作品では光と影が彫刻のシルエットを繊細に描き出し、鑑賞者の視線を自然と木の内部へと誘う。木は単なる素材としてではなく、その薄さと透けるような質感によって、新たな命を宿したかのように立ち現れる。削り出された木の中から浮かび上がる杢目は、偶然の中に潜む秩序を感じさせ、無作為な線が織りなす模様にどこか調和が見て取れる。その姿は、木がかつて刻んだ生命の記憶や物語を映している。

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